・あらすじ:
東京の管弦楽団に所属していたチェロ奏者である小林大悟は、楽団の解散に伴い妻の美香とともに実家のあった山形県へ帰郷する。
山形での就職先を探していた大悟は、新聞で「NKエージェント」という求人を見つける。
「旅のお手伝い」という求人内容に加えて、「高給保証」や「実労働時間わずか」という条件も相まって大悟は面接を受けるが、そこで面接をした社長は履歴書をそれほど確認することなく「採用」との判断をする。
実はNKエージェントの仕事内容とは葬儀における「納棺」だった。
社長に押し切られる形で就職した大悟だったが、妻の美香には本当のことを言えず、こうして大悟の納棺師としての仕事がスタートした。
・見どころ:
この映画は、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したことでも知られる、日本映画屈指の名作です。
「死ぬこと」に向き合うことで「命」のもつ意味を真摯に問いかけるこの映画で忘れてはならないのが、二人の名バイプレーヤーの存在です。
ひとりは、主人公である大悟の父親役である峰岸徹。
かつては二枚目スターとして活躍した彼は、この「おくりびと」の公開期間中にこの世を去っています。
この映画の撮影後に別の映画(大林宣彦監督の「その日の前に」)に出演しているので遺作というわけではありませんが、「死」をテーマとした映画で死者の役を演じ、その公開期間中に逝去するという実にこの映画を象徴する存在ではないでしょうか。
本木雅弘演じる大悟との確執は直接触れあう場面こそなかったものの、極めて印象深いシーンとして描かれています。
そしてもう一人は、妻の葬儀を依頼する遺族のひとり・富樫を演じた山田辰夫です。
「狂い咲きサンダーロード」などで数々の強烈な印象を残してきた個性派俳優である彼もまた、2009年にこの世を去っています。
出番は峰岸徹よりもさらに少ない時間ではありますが、滝田監督の高校時代の同級生であることから監督自ら出演をオファーしたという逸話があります。
・感想:
この映画では数々のすばらしいシーンが登場しますが、特にすばらしいと感じたのが「音楽」でした。
もともとオーケストラ楽団出身という設定の主人公・大悟の奏でるチェロのシーンをはじめ、数々の場面で音楽が相乗効果を高めていると思います。
本木雅弘は日本を代表する俳優ですが、その俳優の演技もBGMがあってさらに完成度を高めることができる、音楽のもつ映画への影響力の高さを改めて実感した作品です。