・あらすじ:
アメリカとの開戦の気運が高まる時代、甲子園の優勝投手である並木は、数々の大学からの誘いを蹴って自由な校風のA大学へと進学する。
しかし、肘の故障のためかつてのような剛球を投げることはできなくなっていた。
そんな折、日本はアメリカに対して宣戦を布告、真珠湾攻撃の奇襲に成功する。
喫茶「ボレロ」で日本の開戦について語り合う並木たちに対して、同じ大学の競走部に所属する北はロンドン五輪が戦争の影響で中止になったことを受け海軍へ志願したことを告げる。
やがて戦局はミッドウェー海戦の大敗を機に悪化、ついに並木たち学生にも「学徒出陣」の報せが届き、並木は海軍の特殊兵器に志願する。
海軍が開発した特殊兵器の名は「回天」、のちに「人間魚雷」とあだ名されるこの兵器には脱出装置はない「必死の兵器」だった。
自身の命と引き換えに敵艦を撃沈するこの「回天」を前に、並木の心に「生きること」の意味が去来する。
・見どころ:
戦争の悲惨さを描いた作品は数多くありますが、そのうえで外せないのが「特攻」です。
零戦の「神風」は特攻兵器の中でも特に有名なものではないでしょうか。
この映画はそんな太平洋戦争中に開発された特攻兵器「回天」の搭乗員をテーマに描いた作品です。
魚雷のなかに人が乗り込んで操縦し、敵艦に突っ込んで撃沈するというなんとも狂気じみた兵器ですが、この映画ではそんな回天をとりまく環境を実に丁寧に描写しています。
また、回天がとにかく故障の多い兵器であるという描写もこの映画では頻繁に登場し、そんな不具合だらけの兵器で戦わなければならない状況に見ている側もなんともやりきれない気持ちになっていきます。
・感想:
この映画はおそらく回天搭乗員の青春群像のような方向性を目指していたのかもしれませんが、なんとも後味の悪い内容になっています。
同じ潜水艦をテーマにした映画でも「眼下の敵」や「U-571」などとは完全に一線を画するこの映画ですが、主演の市川海老蔵が実に良い演技を見せてくれます。
今までただ漠然と生きてきた自分を「回天」というものを前にして覚悟を決め、しかしそれでも死に切れない、そんな回天搭乗員の並木を持ち前の演技力で見事に演じきっています。
回天といえば人間魚雷というのは多くの人の知るところですが、その回天が不具合が多かったというのはこの映画で初めて知りました。
こうした点も含めると非常にリアリティのある作品だったのではないでしょうか。